大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和34年(行)105号 判決

原告 前田宇之助 外一名

被告 東京都新島本村選挙管理委員会

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告が昭和三四年七月六日付で、同年四月三〇日執行の東京都新島本村長選挙の効力に関する原告らの異議申立を棄却した決定は無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、原告らは昭和三四年五月一二日付で被告に対し、同年四月三〇日執行の東京都新島本村長選挙の効力に関し、右選挙は公職選挙法第二〇五条第一項の選挙の全部が無効である場合に該当することを理由に異議の申立をし、被告はこれに対し同年七月六日付で異議申立を棄却する旨の決定をした。

二、しかしながら、右決定には重大かつ明白な違法があるから無効である。すなわち、行政行為は正当な権限を有する行政機関により正常な意思に基いてなされることを要し、正当に組織されない機関による行政行為は無効というべきところ、被告選挙管理委員会は、新島本村助役前田仁右エ門外二名の委員をもつて構成される行政機関であるが、右前田委員は新島本村議会議長釜丑之助と共謀し、右両名らの推す植松候補(現村長)のため、村長選挙告示以前である昭和三四年四月一九日不正の手段で不在者投票用紙一五名を持出し、右植松候補への投票を依頼した。したがつて、右前田委員らの違法行為を主たる理由としてなした原告らの選挙無効の異議申立に対しては、合議機関としての被告委員会は、審議の公正を期するため、前田委員を除外して構成されるべきであるにもかかわらず、前田委員を参加させたまま異議棄却の決定をなした。被告委員会のかかる決定は、その違法が重大かつ明白であつて無効というべきである。よつてこれが無効確認を求める。

三、なお、本訴は公職選挙法第二〇二条以下に基く訴訟ではなく、行政事件訴訟特例法第一条の公法上の権利関係に関する訴訟として提起するものである。

被告訴訟代理人は、本案前の申立として主文と同旨の判決を求め、その理由として「原告の主張事実よりみれば、本件異議決定手続上の瑕疵は重大かつ明白なものとはいえないから、本訴は抗告訴訟の手続によるべく、したがつて、訴願を経ていない本訴はその点で不適法である」と述べ、本案につき「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、「請求原因一、の事実は認める。同二、の事実は原告の釈明をまつて答弁する。」

と述べた。

理由

本件訴は、地方公共団体の長の選挙の効力に関して選挙人がなした異議申立に対し、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会がなした決定に対する右異議申立人からする不服の訴であるから、個人の具体的権利義務に関する争訟ではなく、いわゆる民衆訴訟に属するものと見るべきで行政事件訴訟特例法第一条にいう公法上の権利関係に関する訴訟にあたらないものと解する。したがつて、法律の特別の規定(本件について言えば公職選挙法第二〇二条以下)に基くものとしてならばともかく、それ以外に出訴することは許されないものというべきである。よつて本件訴は不適法な訴としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 桜井敏雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例